人に憑いて働かせ続ける憑き物
いそがし
手を止めると、胸の奥がざわつく。用もないのに立ち上がり、何かを片づけ、また次を探す。その落ち着かなさこそ、犬のような顔をした憑き物が、あなたの背にとまっている証だ。
概要
いそがしは、江戸時代の妖怪絵巻に名と姿だけが描かれた、正体不明の妖怪。舌を出して顔を仰向け、着物を肩脱ぎに両手を広げた姿で表される。後世には人に憑いて休みなく働かせる憑き物として語られ、その顔は犬のようだともいわれる。
出現
特定の場所に出るのではなく、人にそっと取り憑く。憑かれると、やたらにあくせくして落ち着かなくなり、じっとしていると何か悪いことをしているような気分になる。逆に忙しく動き回っていると、なぜか奇妙な安心感に包まれるという。
伝承
熊本県八代市の松井文庫が所蔵する『百鬼夜行絵巻』(1832年)などに「いそがし」の名で描かれる。『百物語化絵絵巻』(1780年)にも同様の姿がみえる。絵巻には解説文がなく、水木しげるがこれを人に憑く憑き物として解釈し広めた。
特徴
人に取り憑いて休みなく働かせる憑き物。命を奪うような害はないが、憑かれた者はあくせく動くことにかえって安心を覚え、なかなか離れられない。昔の日本人の勤勉と、狭い国土に多くの人口を抱える生存の不安を映すとされ、現代ではあまりに多くの人が憑かれているともいわれる。